TVアニメ『異世界薬局』がもっとよくわかる!スペシャル解説
第1話:転生薬学者と異世界
雷に当たるとどうなるか
異世界で目を覚ましたファルマは、落雷により気を失っていたのだとロッテから聞かされます。
「雷に当たったら助からないのでは?」と思われるかもしれませんが、落雷による死亡率は10~30%程度とされています。雷による電気ショックにより心静止が生じますが、多くは心筋の自動能により心拍が再開されます。心拍が再開しない場合や呼吸麻痺を伴う場合でも、心肺蘇生術によく反応するため、速やかな対応により救命できる可能性があります。
一過性の意識障害や、ファルマの両腕に表れたような樹枝状(リヒテンベルグ図形)電紋などの皮膚熱傷を伴う場合が多いですが、生存者の大部分は回復し経過は良好であるとされています。
「雷に当たったら助からないのでは?」と思われるかもしれませんが、落雷による死亡率は10~30%程度とされています。雷による電気ショックにより心静止が生じますが、多くは心筋の自動能により心拍が再開されます。心拍が再開しない場合や呼吸麻痺を伴う場合でも、心肺蘇生術によく反応するため、速やかな対応により救命できる可能性があります。
一過性の意識障害や、ファルマの両腕に表れたような樹枝状(リヒテンベルグ図形)電紋などの皮膚熱傷を伴う場合が多いですが、生存者の大部分は回復し経過は良好であるとされています。

ファルマが創造・消去できる物質
ファルマは、頭の中で構造を正確にイメージした化合物を左手で造り出すという異能の力を手に入れました。
第1話で、ファルマは水の創造に成功したあと、水以外の物質も造り出せるかを検証しています。
ファルマがお盆の上に造り出した物質は、以下の通りです。
・金、硫黄、黒鉛、鉄・・・単体(一種類の元素からなる物質)
・塩化ナトリウム、石英、硫酸銅(II)五水和物・・・化合物(複数の元素からなる物質)
・スクロース(砂糖)・・・構造がやや複雑な化合物
構造が複雑すぎたり、イメージできないものは造り出すことができません。
さらに、ファルマは右手で物質を消去することができますが、このときは構造をイメージする必要はなく、化合物の名前を唱えるか念じるだけで十分です。
ファルマは自分の創造した物質がきちんと消去できるかどうかを調べるなど、物質消去の能力を薬などの品質の確認にも役立てています。
第1話で、ファルマは水の創造に成功したあと、水以外の物質も造り出せるかを検証しています。
ファルマがお盆の上に造り出した物質は、以下の通りです。
・金、硫黄、黒鉛、鉄・・・単体(一種類の元素からなる物質)
・塩化ナトリウム、石英、硫酸銅(II)五水和物・・・化合物(複数の元素からなる物質)
・スクロース(砂糖)・・・構造がやや複雑な化合物
構造が複雑すぎたり、イメージできないものは造り出すことができません。
さらに、ファルマは右手で物質を消去することができますが、このときは構造をイメージする必要はなく、化合物の名前を唱えるか念じるだけで十分です。
ファルマは自分の創造した物質がきちんと消去できるかどうかを調べるなど、物質消去の能力を薬などの品質の確認にも役立てています。

第2話:師匠と弟子
ファルマがノートに記述していた内容
薬剤師は、処方された薬の内容や、患者さんから聞き取った情報を記録し、それを分析・評価して今後の治療に活かしていくための記録をつけています。これを『薬剤服用歴(薬歴)』と呼びます。ファルマも、ド・メディシス家の人々を長期的・専門的にフォローしていくために、この薬歴を作成しています。
なお、薬歴はよく『S(subjective data):主観的な情報=患者さんの訴え』、『O(objective data):客観的な情報=検査値や薬の変更点』、『A(assessment):評価=SやOから薬剤師が分析・評価した内容』、『P(plan):計画=患者さんの抱える問題の具体的な解決方法』に分けた『SOAP』形式で作成されます。
この記録があることによって、毎回異なる薬剤師が対応しても、専門的なフォローを継続できるようになっています。
なお、薬歴はよく『S(subjective data):主観的な情報=患者さんの訴え』、『O(objective data):客観的な情報=検査値や薬の変更点』、『A(assessment):評価=SやOから薬剤師が分析・評価した内容』、『P(plan):計画=患者さんの抱える問題の具体的な解決方法』に分けた『SOAP』形式で作成されます。
この記録があることによって、毎回異なる薬剤師が対応しても、専門的なフォローを継続できるようになっています。

水痘と治療薬
水痘は、いわゆる“みずぼうそう”のことで、主に子どもがよく罹るウイルス性の病気です。熱や水ぶくれの症状が現れるのが特徴で、通常は一週間ほどで治りますが、まれに重症化・死亡することもあります。そのため、日本ではワクチン接種で予防するとともに、発症した際には作品中でも登場した『アシクロビル』や『バラシクロビル』といった抗ウイルス薬を使って治療することがあります。
なお、このときに感染したウイルスは神経の中で静かに眠り続けています。そのため、大人になってからストレスや病気で身体が弱ると、このウイルスが再び暴れ始めることがあります。これが『帯状疱疹』です。
なお、ファルマがアシクロビルを創造するときに口にする「2-amino-9-[(2-hydroxyethoxy)methyl]-1,9-dihydro-6H-purin-6-one」は、物質の構造をもとにつけられた名前(IUPAC名)です。物質創造するためには、構造を頭のなかで正確にイメージする必要があるので、ファルマはIUPAC名を唱えながら脳内のイメージを補強しました。
なお、このときに感染したウイルスは神経の中で静かに眠り続けています。そのため、大人になってからストレスや病気で身体が弱ると、このウイルスが再び暴れ始めることがあります。これが『帯状疱疹』です。
なお、ファルマがアシクロビルを創造するときに口にする「2-amino-9-[(2-hydroxyethoxy)methyl]-1,9-dihydro-6H-purin-6-one」は、物質の構造をもとにつけられた名前(IUPAC名)です。物質創造するためには、構造を頭のなかで正確にイメージする必要があるので、ファルマはIUPAC名を唱えながら脳内のイメージを補強しました。

ファルマが作った顕微鏡
ファルマが古い蝶番から作ったのは単レンズ顕微鏡と呼ばれるもので、蝶番の穴にガラス玉をはめ込んで、裏面に標本を固定する器具をつけただけの単純なものです。観察する際は穴からガラス玉を覗き込み、標本を固定しているネジを操作してピントを合わせます。
この顕微鏡は1670年代、織物商であったオランダのアントニ・ファン・レーウェンフックによって作られたものをもとにしています。
レーウェンフックはこの顕微鏡を用いて、湖水の微生物や歯垢、赤血球などを観察しました。その最高倍率はおよそ270倍にもなり、大きさが1~10マイクロメートルほどの細菌を観察することもできました。なお、細菌よりもさらに小さな存在であるウイルスは0.01〜0.1マイクロメートル程度なので、普通の顕微鏡(光学顕微鏡)で見ることはできません。
この顕微鏡は1670年代、織物商であったオランダのアントニ・ファン・レーウェンフックによって作られたものをもとにしています。
レーウェンフックはこの顕微鏡を用いて、湖水の微生物や歯垢、赤血球などを観察しました。その最高倍率はおよそ270倍にもなり、大きさが1~10マイクロメートルほどの細菌を観察することもできました。なお、細菌よりもさらに小さな存在であるウイルスは0.01〜0.1マイクロメートル程度なので、普通の顕微鏡(光学顕微鏡)で見ることはできません。

第3話:筆頭宮廷薬師と転生薬学者
現代日本の薬剤師と、異世界の薬師の業務の相違点
海外では処方箋を書く薬剤師もいますが、日本の薬剤師に処方権(処方箋を書く権利)はありません。そのため、医師が書いた処方箋に基づいて調剤(薬を調合・計量して揃えること)し、もしその処方箋に書かれた薬の内容に疑問があれば、疑義照会(医師に処方意図の確認や、処方の変更・修正を打診すること)をするというのが、日本の薬剤師の主な仕事になります。
一方、この異世界の宮廷薬師には“独立処方権”があるため、薬師が自分の判断で処方箋を書くことができます。ファルマも薬剤師資格を持つ薬学者のため、最初はこの独立処方権に戸惑いますが、現代薬学の知識を持つただ一人の人間として覚悟を決めて、患者に薬を処方しています。
一方、この異世界の宮廷薬師には“独立処方権”があるため、薬師が自分の判断で処方箋を書くことができます。ファルマも薬剤師資格を持つ薬学者のため、最初はこの独立処方権に戸惑いますが、現代薬学の知識を持つただ一人の人間として覚悟を決めて、患者に薬を処方しています。

肺結核について
結核は、結核菌という細菌によって起こる感染症です。高杉晋作、正岡子規、樋口一葉、沖田総司など歴史上の人物の死因としても有名で、かつては日本でも年間に十数万人が死亡していた時代もあるほどの恐ろしい病でした。
現在は『BCGワクチン』と『抗菌薬』で不治の病ではなくなりましたが、2020年の日本でも、新規患者12,739人、死者1,909人と、決して油断はできない病気です。
なお、『抗菌薬』を中途半端に使うと、結核菌が薬に対する抵抗力(耐性)を獲得してしまい、“薬では治療できない結核”を生み出す原因になります。そのため、この耐性化を防ぐ目的で、作用メカニズムの異なる4つの薬を一緒に使うとともに、薬の飲み忘れや飲み間違いが起こらないように薬剤師が患者の服薬を目の前で確認する『直接服薬確認療法』を行って、確実に結核菌を殲滅します。
現在は『BCGワクチン』と『抗菌薬』で不治の病ではなくなりましたが、2020年の日本でも、新規患者12,739人、死者1,909人と、決して油断はできない病気です。
なお、『抗菌薬』を中途半端に使うと、結核菌が薬に対する抵抗力(耐性)を獲得してしまい、“薬では治療できない結核”を生み出す原因になります。そのため、この耐性化を防ぐ目的で、作用メカニズムの異なる4つの薬を一緒に使うとともに、薬の飲み忘れや飲み間違いが起こらないように薬剤師が患者の服薬を目の前で確認する『直接服薬確認療法』を行って、確実に結核菌を殲滅します。

第4話: 皇帝陛下と創業勅許
薬ができるまで
薬の候補となる物質は、天然物から抽出、もしくは化学的に合成した膨大な化合物のなかから実験的に探し出されます。これには数年~十数年もの歳月と、巨額の費用が必要です。しかも、この間に候補物質のほとんどはボツになり、最終的に薬となる化合物は数万個に1個とも言われます。開発の効率化のため、コンピュータで予測をしたり、既知の情報を活用して化合物の構造を設計するというような工夫も行われます。
薬になる可能性のある物質は、まず培養細胞や実験動物を使って薬効や安全性などに関する試験が行われ、これをクリアしたものが健康な人や患者さんに投与する臨床試験(治験)に進みます。ここで薬としての有効性と安全性が科学的に証明され、かつ定められた品質を満たすものだけが、国の審査を経て医薬品として承認されます。
作中でファルマが使用する薬は、このような努力を経て開発された人類の叡智の結晶とも言えるものです。
薬になる可能性のある物質は、まず培養細胞や実験動物を使って薬効や安全性などに関する試験が行われ、これをクリアしたものが健康な人や患者さんに投与する臨床試験(治験)に進みます。ここで薬としての有効性と安全性が科学的に証明され、かつ定められた品質を満たすものだけが、国の審査を経て医薬品として承認されます。
作中でファルマが使用する薬は、このような努力を経て開発された人類の叡智の結晶とも言えるものです。

薬の剤型について
たとえば飲み薬には、錠剤やカプセル剤、あるいは粉薬、液体状のシロップ…と色々な形状のものがあります。さらに、錠剤ひとつをとってみても、素錠、糖衣錠(苦い薬を甘い殻で包んだもの)、腸溶錠(腸まで届いてから溶けるもの)、チュアブル錠(かみ砕くもの)、徐放錠(有効成分がじわじわと溶けだすもの)、口腔内崩壊錠(口の中でさっと溶けるもの)…と更に細かく分類することができます。
こうした剤型の差によって、有効成分が効き始めるまでの時間や、その効き目が続く時間、効果や副作用の程度が大きく変わることがあるため、その有効成分を最も有効かつ安全に使える剤型で薬を使います。
薬剤師の資格を持つファルマは、こうした剤型の特性も深く理解した上で薬を選んでいます。
こうした剤型の差によって、有効成分が効き始めるまでの時間や、その効き目が続く時間、効果や副作用の程度が大きく変わることがあるため、その有効成分を最も有効かつ安全に使える剤型で薬を使います。
薬剤師の資格を持つファルマは、こうした剤型の特性も深く理解した上で薬を選んでいます。

第5話: 異世界薬局の日常と化粧品
壊血病について
壊血病は、ビタミンCの欠乏によって起こる病気です。長い船旅では新鮮な野菜や果物が手に入らなかったことから、15~17世紀の大航海時代には船乗りの間でこの壊血病が蔓延し、250年の間に200万人の船乗りが死亡したとされています。
当時は海風などの気象要因によって起こるものと考えられていましたが、1747年にイギリス海軍の軍医ジェームズ・リンドが、壊血病の治療に柑橘類が有効かもしれないという論文を発表しています。さらに、1768年にはジェームズ・クック(通称キャプテン・クック)が、船内環境や食事の充実を図ることで壊血病による死者を1人も出さずに地球一周の航海を成功させます。
その後、イギリス海軍は1790年頃からレモンやライムを全ての船に支給し始めたことで、壊血病はほとんど起こらなくなりました。
物語に出てきた『船乗りの飴』は、そんな背景を踏まえたビタミンCを補給できる飴玉です。
当時は海風などの気象要因によって起こるものと考えられていましたが、1747年にイギリス海軍の軍医ジェームズ・リンドが、壊血病の治療に柑橘類が有効かもしれないという論文を発表しています。さらに、1768年にはジェームズ・クック(通称キャプテン・クック)が、船内環境や食事の充実を図ることで壊血病による死者を1人も出さずに地球一周の航海を成功させます。
その後、イギリス海軍は1790年頃からレモンやライムを全ての船に支給し始めたことで、壊血病はほとんど起こらなくなりました。
物語に出てきた『船乗りの飴』は、そんな背景を踏まえたビタミンCを補給できる飴玉です。

医学史と瀉血
瀉血は古来ギリシャより19世紀に至るまで、瀉下や食事制限、動物・植物・鉱物性の薬物療法とともに、医学史においては確固とした治療法として用いられてきました。
ヒポクラテスやアリストテレスらも瀉血を治療に取り入れ、四体液説を用いたガレノスが瀉血の有効性を補強し、長きにわたり瀉血は疾患の治療法として漫然と用いられ、影響力を持ちました。
瀉血は専用のナイフで静脈を切開するという方法が一般的でしたが、衛生を保つことができなかったため、切開部から感染症を引き起こすことも頻繁にありました。
19世紀、ピエール=シャルル・ルイが医療統計と疫学に基づいて、瀉血に効果がないことを明らかにし、瀉血は廃れました。
なお、現代医療において瀉血は真正多血症、C型肝炎感染症、ヘモクロマトーシスなどのごく限られた疾患に対してしか行われていません。
ヒポクラテスやアリストテレスらも瀉血を治療に取り入れ、四体液説を用いたガレノスが瀉血の有効性を補強し、長きにわたり瀉血は疾患の治療法として漫然と用いられ、影響力を持ちました。
瀉血は専用のナイフで静脈を切開するという方法が一般的でしたが、衛生を保つことができなかったため、切開部から感染症を引き起こすことも頻繁にありました。
19世紀、ピエール=シャルル・ルイが医療統計と疫学に基づいて、瀉血に効果がないことを明らかにし、瀉血は廃れました。
なお、現代医療において瀉血は真正多血症、C型肝炎感染症、ヘモクロマトーシスなどのごく限られた疾患に対してしか行われていません。

第7話: 影のない少年と異端審問官
開放性骨折と、その治療
開放性骨折とは、皮膚に傷ができて骨折部と外が通じている状態で、酷い場合は骨が皮膚から飛び出しています。骨折部が汚染されているため、そのままでは感染が生じ治癒が困難となります。
治療は、初期の洗浄とデブリードマン(汚染や挫滅した組織を切除し取り除くこと)が非常に重要です。処置までの時間と共に、処置の質も重要と考えられています。また、抗生剤の投与、状況により破傷風の予防などを行います。適切にデブリードマンが行われ、周囲の組織が保たれていれば、骨を正確な位置に戻し固定を行い傷を閉じます。処置が難しい場合は簡易的に骨折部を固定して、一週間以内を目処に周辺組織の再建と骨折部の固定を行います。
治療は、初期の洗浄とデブリードマン(汚染や挫滅した組織を切除し取り除くこと)が非常に重要です。処置までの時間と共に、処置の質も重要と考えられています。また、抗生剤の投与、状況により破傷風の予防などを行います。適切にデブリードマンが行われ、周囲の組織が保たれていれば、骨を正確な位置に戻し固定を行い傷を閉じます。処置が難しい場合は簡易的に骨折部を固定して、一週間以内を目処に周辺組織の再建と骨折部の固定を行います。

腰椎麻酔について
開放性骨折の治療はかなりの痛みを伴う処置であり、麻酔が必要になります。
作中では、下肢の痛みが取れること、処置の間に麻酔が保たれること、用意できる器具や機器の制限などを考慮して、脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔)が選択されています。
椎骨には椎孔という穴があり、縦に連なって脊柱管を形成し、内部には脊髄という神経の太い束が走っています。脊髄は、第1~2腰椎の所で髪の毛程度に細かく分かれて馬尾と呼ばれる状態になります。馬尾になっている位置(腰椎レベル)を狙い、脊髄がある場所(くも膜下腔)に背中側から針を刺して、麻酔薬を注入するのが腰椎麻酔です。
自分の臍を見るように頭と背中を丸める事により、馬尾が腹側に移動して、椎体と椎体の間が広がり穿刺が容易になるため、患者の姿勢が大切になります。
サロモンの治療の際は、下肢の痛みをとる事が目的のため、第4~5腰椎(もしくは第5腰椎~仙骨)間から針を刺し、徐々に針を進め脳脊髄液の逆流を確認、針先を動かさないように注射器を接続して麻酔液を注入、そして神術で氷を生成し皮膚に当てる事で、麻酔範囲の確認を行っています。
作中では、下肢の痛みが取れること、処置の間に麻酔が保たれること、用意できる器具や機器の制限などを考慮して、脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔)が選択されています。
椎骨には椎孔という穴があり、縦に連なって脊柱管を形成し、内部には脊髄という神経の太い束が走っています。脊髄は、第1~2腰椎の所で髪の毛程度に細かく分かれて馬尾と呼ばれる状態になります。馬尾になっている位置(腰椎レベル)を狙い、脊髄がある場所(くも膜下腔)に背中側から針を刺して、麻酔薬を注入するのが腰椎麻酔です。
自分の臍を見るように頭と背中を丸める事により、馬尾が腹側に移動して、椎体と椎体の間が広がり穿刺が容易になるため、患者の姿勢が大切になります。
サロモンの治療の際は、下肢の痛みをとる事が目的のため、第4~5腰椎(もしくは第5腰椎~仙骨)間から針を刺し、徐々に針を進め脳脊髄液の逆流を確認、針先を動かさないように注射器を接続して麻酔液を注入、そして神術で氷を生成し皮膚に当てる事で、麻酔範囲の確認を行っています。

第8話: インフルエンザと薬局の夜明け
小児の薬の計算方法
子どもの薬は、多くの場合は体重に合わせてその量を調節します。
子どもは大人と比べると、血液量や体重に占める肝臓の割合や代謝酵素の発達が異なるほか、成長に関する影響なども考慮しなければなりません。そのため、大人の半分よりももっと少ない量で慎重に使わなければならない薬、そもそも子どもに使ってはいけない薬、場合によっては大人よりも体重あたりの量は多くなる薬など、様々です。
なお、実際の医療現場では『Youngの式』『Crawfordの式』『Augsbergerの式』『Von Harnackの換算表』などの計算式も使って、子どもにとって適切な薬の量を算出しています。
子どもは大人と比べると、血液量や体重に占める肝臓の割合や代謝酵素の発達が異なるほか、成長に関する影響なども考慮しなければなりません。そのため、大人の半分よりももっと少ない量で慎重に使わなければならない薬、そもそも子どもに使ってはいけない薬、場合によっては大人よりも体重あたりの量は多くなる薬など、様々です。
なお、実際の医療現場では『Youngの式』『Crawfordの式』『Augsbergerの式』『Von Harnackの換算表』などの計算式も使って、子どもにとって適切な薬の量を算出しています。

インフルエンザ治療薬について
日本では、インフルエンザ治療に5種類の抗ウイルス薬が承認されています。作中で登場した『吸入薬』以外にも、『飲み薬』『点滴薬』など色々なタイプのものがありますが、特に効果に目立った違いはありません。吐き気が強くて飲み薬を吐いてしまったり、咳が強くて吸入薬でむせてしまったりしないよう、適したタイプの薬を選ぶのが一般的です。
作中においては、ファルマは患者のマリーが薬を吐いてしまう可能性を考えて、吸入薬を選んでいます。
なお、これらの抗ウイルス薬は主にインフルエンザのつらい症状を早く治す目的で処方されますが、治療に必須の薬というわけではありません。そのため、健康な若い人などでは、病院でインフルエンザと診断されても薬が処方されないこともあります。
作中においては、ファルマは患者のマリーが薬を吐いてしまう可能性を考えて、吸入薬を選んでいます。
なお、これらの抗ウイルス薬は主にインフルエンザのつらい症状を早く治す目的で処方されますが、治療に必須の薬というわけではありません。そのため、健康な若い人などでは、病院でインフルエンザと診断されても薬が処方されないこともあります。

第9話:ある邪悪な男の話
世界史にみる黒死病の流行
黒死病は、地球史において周期的に大流行しました。
6世紀には“ユスティニアヌスの斑点”として東ローマ帝国を衰退させ、14世紀には地中海での商業活動を起点としてヨーロッパで大流行し、当時のヨーロッパ人口の三分の一が死亡しました。
致死率の高い黒死病の流行による人口の減少は、労働者の地位向上につながりました。聖職者や王侯貴族も黒死病に感染したことから、権威の失墜によって封建体制の弱体化を招き、中世から近世へと時代を移行させました。
14世紀の黒死病のあとには、イタリアではルネサンスが勃興しました。
19世紀の東アジアでの流行時には、北里柴三郎とアレクサンドル・イェルシンがほぼ同時にペスト菌を発見し、感染症として病態の解明が進みました。
黒死病は過去のものではなく、現在でも流行地が存在します。
6世紀には“ユスティニアヌスの斑点”として東ローマ帝国を衰退させ、14世紀には地中海での商業活動を起点としてヨーロッパで大流行し、当時のヨーロッパ人口の三分の一が死亡しました。
致死率の高い黒死病の流行による人口の減少は、労働者の地位向上につながりました。聖職者や王侯貴族も黒死病に感染したことから、権威の失墜によって封建体制の弱体化を招き、中世から近世へと時代を移行させました。
14世紀の黒死病のあとには、イタリアではルネサンスが勃興しました。
19世紀の東アジアでの流行時には、北里柴三郎とアレクサンドル・イェルシンがほぼ同時にペスト菌を発見し、感染症として病態の解明が進みました。
黒死病は過去のものではなく、現在でも流行地が存在します。

レボフロキサシンについて
ペストはペスト菌による感染症ですので、一部の抗菌薬で治療することができます。
作中で登場した『レボフロキサシン』のほかにも、日本では『ストレプトマイシン』や『ドキシサイクリン』、アメリカでは『シプロフロキサシン』や『クロラムフェニコール』といった抗菌薬が承認されています。 ファルマが本作で『レボフロキサシン』を選んだのは、以下のような理由があります。
作中で登場した『レボフロキサシン』のほかにも、日本では『ストレプトマイシン』や『ドキシサイクリン』、アメリカでは『シプロフロキサシン』や『クロラムフェニコール』といった抗菌薬が承認されています。 ファルマが本作で『レボフロキサシン』を選んだのは、以下のような理由があります。
- 分子量が比較的小さく、ファルマの能力で創造しやすい
- 服薬が簡単な飲み薬である
- 1日1回の服用で良く、準備の負担が少ない
- 光や湿度に強く保管が簡単

第10話:黒死病
海上検疫の歴史
地球史における1347年10月、当時貿易の中継地であったイタリアのシチリア島で黒死病が発生し、14世紀ヨーロッパでの黒死病の大流行に繋がりました。
当時の人々は、黒死病をはじめとする感染症の病原体や感染経路を知りませんでしたが、都市への黒死病の侵入を防ぐために、1377年にはベニスで海上検疫が始まりました。
検疫の方法は、船を30日間海上に停泊させて発症者が現れないか確認したうえで入港を許可するというものでしたが、30日間では感染の流行を抑えられなかったため、のちに延長されて40日となりました。
イタリア語で『40日』を意味する『quarantine』は、検疫を示す言葉ともなりました。
当時の人々は、黒死病をはじめとする感染症の病原体や感染経路を知りませんでしたが、都市への黒死病の侵入を防ぐために、1377年にはベニスで海上検疫が始まりました。
検疫の方法は、船を30日間海上に停泊させて発症者が現れないか確認したうえで入港を許可するというものでしたが、30日間では感染の流行を抑えられなかったため、のちに延長されて40日となりました。
イタリア語で『40日』を意味する『quarantine』は、検疫を示す言葉ともなりました。

エスターク村の区分けと感染拡大防止策
すでに黒死病のアウトブレイク(集団感染)の状態にあったエスターク村で、ファルマは黒死病の封じ込めと治療を行いました。
村の主要な路地に沿って氷壁で囲い、感染区画(汚染区域)と非感染区画(清潔区域)に分けるゾーニング、さらに感染区画内に重症区画をもうけ、重症患者は施療院と神殿に集めました。そして村の薬師二名と村役人の管理する対策本部を非感染区画内に設置し、各区画の村民全員に薬とマスクを配布しました。
各区画は基本的に通行不可ですが、神術による氷壁は徐々に溶けて、アウトブレイクが終息するころには各区画を通行できるように想定されています。また、ペスト菌伝播の原因となるげっ歯類が村外から侵入するのを防ぐために、村の入口にネズミ返しを設けています。
非感染区画から感染区画に入る際には防護衣やマスク等を着用し、出る時には所定の場所で脱ぎ、感染性廃棄物として破棄します。物語中では焼却していますが、現実世界では回収箱に密封したまま破棄します。
村の主要な路地に沿って氷壁で囲い、感染区画(汚染区域)と非感染区画(清潔区域)に分けるゾーニング、さらに感染区画内に重症区画をもうけ、重症患者は施療院と神殿に集めました。そして村の薬師二名と村役人の管理する対策本部を非感染区画内に設置し、各区画の村民全員に薬とマスクを配布しました。
各区画は基本的に通行不可ですが、神術による氷壁は徐々に溶けて、アウトブレイクが終息するころには各区画を通行できるように想定されています。また、ペスト菌伝播の原因となるげっ歯類が村外から侵入するのを防ぐために、村の入口にネズミ返しを設けています。
非感染区画から感染区画に入る際には防護衣やマスク等を着用し、出る時には所定の場所で脱ぎ、感染性廃棄物として破棄します。物語中では焼却していますが、現実世界では回収箱に密封したまま破棄します。

感染症の感染経路と防護具
感染症は、個々の病気により感染が広がる経路が異なります。この感染経路は、病原体からの予想と過去の感染拡大の様子から判断され、主な感性経路は以下のようになります。
・空気感染…患者の咳や会話などによって出た極々微少な飛沫核が空気中に広がり、これを吸い込むことで感染します。皇帝陛下も感染した肺結核や、麻疹、水痘などが該当します。
・飛沫感染…1~2m程度飛ぶ飛沫が直接、または間接的に口や鼻腔の粘膜につく事で感染します。インフルエンザ、百日咳、風疹などが該当します。
・接触感染…直接または間接的な接触による感染で、病原体により多彩な経路があります。たとえばノロウイルスやロタウイルスは感染力が強く、病原体が付いたドアノブや机を触った手でものを食べるなどで感染します。多くの細菌感染症も接触感染です。
ファルマが対決している黒死病(ペスト菌)は、初期はノミや感染動物からの直接暴露による接触感染が主になります。病状が悪化して肺炎(肺ペスト)になると飛沫感染となり、人から人へと感染するため、一気に感染が広がります。
医療現場では個々の感染症に合わせた感染予防対策を行いますが、そもそも病原体が全く無い事を確認するのは困難で、未知の感染症の可能性もあります。ですので、すべての人は伝播する病原体を保有していると考え、感染源(血液、体液、汗を除く分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜)に暴露される時は個人防護具(マスク、フェイスシールド、ガウン、手袋など)を用い、暴露されない場合でも前後で手指衛生を行います。これを標準予防策と呼び、感染予防対策の基本として普遍的に行われています。
・空気感染…患者の咳や会話などによって出た極々微少な飛沫核が空気中に広がり、これを吸い込むことで感染します。皇帝陛下も感染した肺結核や、麻疹、水痘などが該当します。
・飛沫感染…1~2m程度飛ぶ飛沫が直接、または間接的に口や鼻腔の粘膜につく事で感染します。インフルエンザ、百日咳、風疹などが該当します。
・接触感染…直接または間接的な接触による感染で、病原体により多彩な経路があります。たとえばノロウイルスやロタウイルスは感染力が強く、病原体が付いたドアノブや机を触った手でものを食べるなどで感染します。多くの細菌感染症も接触感染です。
ファルマが対決している黒死病(ペスト菌)は、初期はノミや感染動物からの直接暴露による接触感染が主になります。病状が悪化して肺炎(肺ペスト)になると飛沫感染となり、人から人へと感染するため、一気に感染が広がります。
医療現場では個々の感染症に合わせた感染予防対策を行いますが、そもそも病原体が全く無い事を確認するのは困難で、未知の感染症の可能性もあります。ですので、すべての人は伝播する病原体を保有していると考え、感染源(血液、体液、汗を除く分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜)に暴露される時は個人防護具(マスク、フェイスシールド、ガウン、手袋など)を用い、暴露されない場合でも前後で手指衛生を行います。これを標準予防策と呼び、感染予防対策の基本として普遍的に行われています。

第11話:エスターク村の奇跡
放線菌から得られる抗生物質について
放線菌とは、主に放射状に菌糸を出して細長く生育する細菌群をいいます。
コリネバクテリウム属のジフテリア菌、マイコバクテリウム属のヒト結核菌など病原性を持つ種類もありますが、ビフィドバクテリウム属のビフィズス菌はヨーグルトや整腸剤に利用できます。なかでもストレプトマイセス属には抗生物質を生産する菌が多く、ストレプトマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、バンコマイシン、エリスロマイシンなどを単離することができます。
寒天培地上に試験対象微生物を塗り、その上に抗生物質またはそれをしみこませた濾紙などを乗せて培養すると、発育阻止帯ができ、抗生物質の効力を評価することができます。
コリネバクテリウム属のジフテリア菌、マイコバクテリウム属のヒト結核菌など病原性を持つ種類もありますが、ビフィドバクテリウム属のビフィズス菌はヨーグルトや整腸剤に利用できます。なかでもストレプトマイセス属には抗生物質を生産する菌が多く、ストレプトマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、リファンピシン、バンコマイシン、エリスロマイシンなどを単離することができます。
寒天培地上に試験対象微生物を塗り、その上に抗生物質またはそれをしみこませた濾紙などを乗せて培養すると、発育阻止帯ができ、抗生物質の効力を評価することができます。

第12話:彼が治せなかったもの
ファルマが特定を試みた毒物
カミュに背中を刺され倒れているロッテとセドリックを発見したファルマは、物質消去で毒を消去するために診眼で毒物を絞り込んでゆきました。
- アルカロイド
アルカリ性の有機化合物の総称です。 - アコニチン
トリカブトの植物体全ての部分に含まれる有毒成分で、神経毒として古くから知られており、呼吸不全で死亡します。解毒法はなく、治療法は嘔吐や胃洗浄が中心です。 - テトロドトキシン
フグ毒の主成分で、神経や骨格筋のナトリウムチャネルを阻害することで活動電位の発生をおさえ、心筋や神経に致命的なダメージを与えます。この毒はフグが生産するのではなく、複数の細菌種が生産しフグの体内に生体濃縮します。 - サキシトキシン
カキなどの貝が特定の種のプランクトンを捕食し生物濃縮したときにできる麻痺性の貝毒で、フグ毒を構成する成分の一つでもあります。 - パリトキシン
ハワイに生息するイワスナギンチャクの毒で、テトロドトキシンより強力です。ハワイでは矢毒として用いられていました。 - アマニチン
テングダケ科の毒キノコなどが持つ毒素です。生体内に取り込まれると、タンパク質合成を阻害することで細胞組織を壊死させます。 - バトラコトキシン
フキヤガエル属のカエルが分泌している神経毒性を持つアルカロイドの一種で、ナトリウムチャネルに作用し開放状態にします。古くから矢毒として用いられています。
