Specialスペシャル

TVアニメ『異世界薬局』がもっとよくわかる!スペシャル解説

第1話:転生薬学者と異世界

雷に当たるとどうなるか

異世界で目を覚ましたファルマは、落雷により気を失っていたのだとロッテから聞かされます。
「雷に当たったら助からないのでは?」と思われるかもしれませんが、落雷による死亡率は10~30%程度とされています。雷による電気ショックにより心静止が生じますが、多くは心筋の自動能により心拍が再開されます。心拍が再開しない場合や呼吸麻痺を伴う場合でも、心肺蘇生術によく反応するため、速やかな対応により救命できる可能性があります。
一過性の意識障害や、ファルマの両腕に表れたような樹枝状(リヒテンベルグ図形)電紋などの皮膚熱傷を伴う場合が多いですが、生存者の大部分は回復し経過は良好であるとされています。
 

ファルマが創造・消去できる物質

ファルマは、頭の中で構造を正確にイメージした化合物を左手で造り出すという異能の力を手に入れました。
第1話で、ファルマは水の創造に成功したあと、水以外の物質も造り出せるかを検証しています。
ファルマがお盆の上に造り出した物質は、以下の通りです。
・金、硫黄、黒鉛、鉄・・・単体(一種類の元素からなる物質)
・塩化ナトリウム、石英、硫酸銅(II)五水和物・・・化合物(複数の元素からなる物質)
・スクロース(砂糖)・・・構造がやや複雑な化合物
構造が複雑すぎたり、イメージできないものは造り出すことができません。
さらに、ファルマは右手で物質を消去することができますが、このときは構造をイメージする必要はなく、化合物の名前を唱えるか念じるだけで十分です。
ファルマは自分の創造した物質がきちんと消去できるかどうかを調べるなど、物質消去の能力を薬などの品質の確認にも役立てています。
 

第2話:師匠と弟子

ファルマがノートに記述していた内容

薬剤師は、処方された薬の内容や、患者さんから聞き取った情報を記録し、それを分析・評価して今後の治療に活かしていくための記録をつけています。これを『薬剤服用歴(薬歴)』と呼びます。ファルマも、ド・メディシス家の人々を長期的・専門的にフォローしていくために、この薬歴を作成しています。
なお、薬歴はよく『S(subjective data):主観的な情報=患者さんの訴え』、『O(objective data):客観的な情報=検査値や薬の変更点』、『A(assessment):評価=SやOから薬剤師が分析・評価した内容』、『P(plan):計画=患者さんの抱える問題の具体的な解決方法』に分けた『SOAP』形式で作成されます。
この記録があることによって、毎回異なる薬剤師が対応しても、専門的なフォローを継続できるようになっています。
 

水痘と治療薬

水痘は、いわゆる“みずぼうそう”のことで、主に子どもがよく罹るウイルス性の病気です。熱や水ぶくれの症状が現れるのが特徴で、通常は一週間ほどで治りますが、まれに重症化・死亡することもあります。そのため、日本ではワクチン接種で予防するとともに、発症した際には作品中でも登場した『アシクロビル』や『バラシクロビル』といった抗ウイルス薬を使って治療することがあります。
なお、このときに感染したウイルスは神経の中で静かに眠り続けています。そのため、大人になってからストレスや病気で身体が弱ると、このウイルスが再び暴れ始めることがあります。これが『帯状疱疹』です。
なお、ファルマがアシクロビルを創造するときに口にする「2-amino-9-[(2-hydroxyethoxy)methyl]-1,9-dihydro-6H-purin-6-one」は、物質の構造をもとにつけられた名前(IUPAC名)です。物質創造するためには、構造を頭のなかで正確にイメージする必要があるので、ファルマはIUPAC名を唱えながら脳内のイメージを補強しました。
 

ファルマが作った顕微鏡

ファルマが古い蝶番から作ったのは単レンズ顕微鏡と呼ばれるもので、蝶番の穴にガラス玉をはめ込んで、裏面に標本を固定する器具をつけただけの単純なものです。観察する際は穴からガラス玉を覗き込み、標本を固定しているネジを操作してピントを合わせます。
この顕微鏡は1670年代、織物商であったオランダのアントニ・ファン・レーウェンフックによって作られたものをもとにしています。
レーウェンフックはこの顕微鏡を用いて、湖水の微生物や歯垢、赤血球などを観察しました。その最高倍率はおよそ270倍にもなり、大きさが1~10マイクロメートルほどの細菌を観察することもできました。なお、細菌よりもさらに小さな存在であるウイルスは0.01〜0.1マイクロメートル程度なので、普通の顕微鏡(光学顕微鏡)で見ることはできません。
 

第3話:筆頭宮廷薬師と転生薬学者

現代日本の薬剤師と、異世界の薬師の業務の相違点

海外では処方箋を書く薬剤師もいますが、日本の薬剤師に処方権(処方箋を書く権利)はありません。そのため、医師が書いた処方箋に基づいて調剤(薬を調合・計量して揃えること)し、もしその処方箋に書かれた薬の内容に疑問があれば、疑義照会(医師に処方意図の確認や、処方の変更・修正を打診すること)をするというのが、日本の薬剤師の主な仕事になります。
一方、この異世界の宮廷薬師には“独立処方権”があるため、薬師が自分の判断で処方箋を書くことができます。ファルマも薬剤師資格を持つ薬学者のため、最初はこの独立処方権に戸惑いますが、現代薬学の知識を持つただ一人の人間として覚悟を決めて、患者に薬を処方しています。
 

肺結核について

結核は、結核菌という細菌によって起こる感染症です。高杉晋作、正岡子規、樋口一葉、沖田総司など歴史上の人物の死因としても有名で、かつては日本でも年間に十数万人が死亡していた時代もあるほどの恐ろしい病でした。
現在は『BCGワクチン』と『抗菌薬』で不治の病ではなくなりましたが、2020年の日本でも、新規患者12,739人、死者1,909人と、決して油断はできない病気です。
なお、『抗菌薬』を中途半端に使うと、結核菌が薬に対する抵抗力(耐性)を獲得してしまい、“薬では治療できない結核”を生み出す原因になります。そのため、この耐性化を防ぐ目的で、作用メカニズムの異なる4つの薬を一緒に使うとともに、薬の飲み忘れや飲み間違いが起こらないように薬剤師が患者の服薬を目の前で確認する『直接服薬確認療法』を行って、確実に結核菌を殲滅します。
 

第4話: 皇帝陛下と創業勅許

薬ができるまで

薬の候補となる物質は、天然物から抽出、もしくは化学的に合成した膨大な化合物のなかから実験的に探し出されます。これには数年~十数年もの歳月と、巨額の費用が必要です。しかも、この間に候補物質のほとんどはボツになり、最終的に薬となる化合物は数万個に1個とも言われます。開発の効率化のため、コンピュータで予測をしたり、既知の情報を活用して化合物の構造を設計するというような工夫も行われます。
薬になる可能性のある物質は、まず培養細胞や実験動物を使って薬効や安全性などに関する試験が行われ、これをクリアしたものが健康な人や患者さんに投与する臨床試験(治験)に進みます。ここで薬としての有効性と安全性が科学的に証明され、かつ定められた品質を満たすものだけが、国の審査を経て医薬品として承認されます。
作中でファルマが使用する薬は、このような努力を経て開発された人類の叡智の結晶とも言えるものです。
 

薬の剤型について

たとえば飲み薬には、錠剤やカプセル剤、あるいは粉薬、液体状のシロップ…と色々な形状のものがあります。さらに、錠剤ひとつをとってみても、素錠、糖衣錠(苦い薬を甘い殻で包んだもの)、腸溶錠(腸まで届いてから溶けるもの)、チュアブル錠(かみ砕くもの)、徐放錠(有効成分がじわじわと溶けだすもの)、口腔内崩壊錠(口の中でさっと溶けるもの)…と更に細かく分類することができます。
こうした剤型の差によって、有効成分が効き始めるまでの時間や、その効き目が続く時間、効果や副作用の程度が大きく変わることがあるため、その有効成分を最も有効かつ安全に使える剤型で薬を使います。
薬剤師の資格を持つファルマは、こうした剤型の特性も深く理解した上で薬を選んでいます。
 

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